2019年の夏頃に、新規でお問い合わせがあったお客様との実体験を基に、実際に行政書士として障がい者グループホーム開設(東京都)に至るまでの流れを簡単にまとめてみたいと思います。
東京都福祉保健局HP → https://www.shougaifukushi.metro.tokyo.lg.jp/Lib/LibDspCatego.php?catid=015
はじめに
今回、お問い合わせがあったお客様は、NPO法人として既に短期入所の運営を行っている方で、初めて障がい者グループホームを開設したいとのことでした。
当事務所では、初めてのグループホーム開設のご支援でしたので、いろいろとお調べしながら進めた内容をまとめていきます。
まず、障がい者グループホームは、法人格を取得する必要があります。
株式会社・合同会社・一般社団法人・特定非営利活動法人(NPO法人)など、そのお客様にあった法人設立をすることが必要です。
また、グループホームには類型があり、 介護サービス包括型・日中サービス支援型・外部サービス利用型 があります。
- 介護サービス包括型 → 世話人、生活支援員が介護サービスの提供を行うもの
- 日中サービス支援型 → 常時介護が必要な利用者を対象に、世話人、生活支援員を24時間配置し介護サービスを提供するもの(※短期入所を必ず設置すること)
- 外部サービス利用型 → 介護サービスは、事業所が委託する居宅介護事業者が行うもの(※生活支援員の配置は不要)
今回のお客様は、介護サービス包括型の類型にて申請いたしました。
それでは、以下ではグループホーム開設において必要な要件などを記載していきたいと思います。
グループホーム開設に必要なもの
- 法人格の取得
- 人員確保(スタッフと入居希望者)
- 物件確保
- 都庁による現地確認
簡単にまとめると、上記のような項目が必要となります。
今回のお客様は既にNPO法人として運営をされておりましたので、項目としては1番目はクリアしておりました。
次に必要なことは、人員の確保となります。
人員確保(スタッフと入居希望者)
人員確保として必要なものは、まずは介護サービスを行うスタッフとなります。
役職としては、「管理者」「サービス管理責任者」「世話人」「生活支援員」が必要です。
- 「管理者」 → 常勤・兼務可で1名。事業所全体のマネジメントが業務となり、グループホームのサービスを提供するために必要な知識と経験が必要となります。
- 「サービス管理責任者」 → 非常勤・兼務可で1名。利用者の個別支援計画の作成やスタッフの技術指導やサポートが業務内容。実務経験(通算5年以上【相談支援業務、直接支援業務+資格有】、通算8年以上【直接支援業務】、通算3年以上【相談支援業務又は直接支援業務】+国家資格の業務通算3年以上)の証明書が必要で、サービス管理責任者の研修を修了していることが必要です。
- 「世話人」 → 非常勤・兼務可。入居者の直接介助、金銭管理、健康管理、服薬管理などの日常生活に必要な援助や相談が業務となります。
- 「生活支援員」 → 非常勤・兼務可。入居者の直接介助が業務内容です。
介護スタッフの役職の中で、サービス管理責任者(通称サビ管)は実務経験と研修を修了していないとなることができないため、新規採用の募集をかけてもなかなか見つけるのも苦労するかと思われます。
そのため、グループホーム設立を目指すのであれば、事前に協力してくれそうな方の目星は付けておきたいものです。
また、世話人や生活支援員の人数は、入居者の人数やシフト管理のうえで不足のないような人数を用意する必要があります。
入居者について、グループホームの最低定員は4名となりますので、こちらに関しては事前に開設予定地の市区町村の役所の障害福祉課に相談をしていただき、グループホームの需要があるかなどの確認が必要となります。
また、物件の家賃との兼ね合いで収支計画も考えないといけませんので、入居者の人数はしっかりと考える必要があります。
ただ、最低定員の4名だと収支計画上なかなか厳しいので、ある程度の入居者を募集する必要はあります。
今回の申請においては、もともと短期入所を利用していた方や、グループホームを探していた方との繋がりがあり、早いタイミングで6名の方に入居していただくことが決定しました。
また、今回は管理者の方を防火管理者として選任することとなりましたので、防火管理者の講習を受講してもらい、防火管理に係る消防計画の作成も並行して進めていただきました。
物件確保
物件に関しての要件は、入居者それぞれに個室が用意されており、個室の面積は棚やタンスなどの収納設備を除く7.43㎡以上となります。
内装としては、入居者全員が交流できる居間・食堂があり、台所、トイレ、洗面設備、浴室等がある必要があります。
今回、一番大変だったのはこの物件探しです。
まず最初に見付けた物件は、事業所のすぐそばにある一軒家でした。
2階建てロフト付、庭付きの家でした。
まず、管理会社と連絡を取り合い登記事項証明書や平面図を請求しました。
ここで、問題となったのが、しっかりとした平面図が用意できないということでした。
そこで、まず物件の計測が必要となり、真夏の空調も入っていない一軒家を半日かけて計測し、持ち帰った図を基にCADで図面作成をしました。
その後、所在地を管轄している消防署に連絡をして、消防設備についての相談をしに消防署で面談をしました。
その際、作成した図面と登記事項証明書を持っていき、消防署職員と相談をし、利用者像や物件の構造などから、必要な消防設備を教えていただきました。
他にも建築主事と役所の障害福祉課にグループホーム開設についての相談を済ませたうえで、都庁での面談となります。
しかし、ここで問題が発生しました。
一部屋だけ収納スペースがなく、タンスを置くなどすると7.43㎡をクリアできなくなる可能性があるということでした。
そのあとも、消防設備の設置問題なども出てきたため、この一軒家は諦めることに…。
そこで、新しい物件を探し直しました。
物件確保だけでいうと、流れとしては以下のとおりとなります。
計測 ⇒ 図面作成 ⇒ 各所へ相談 ⇒ 都庁面談 ⇒ 物件の賃貸借契約 ⇒ 消防設備の設置 ⇒ 家具家電の購入 ⇒ 消防の立ち入り検査(事業計画書や各種書類の作成を並行して進めてます。)
物件の賃貸借契約を締結してからの流れは、家賃が発生してきてしまうので、とても早く進ませました。
最後の消防の立ち入り調査の「検査結果通知書」がグループホーム開設時までに用意できないと、グループホームの開設ができませんので、しっかりとスケジュールを調整して開設日から逆算していくことが必要です。
ちなみに、今回申請した物件はマンションの2部屋を賃貸することで6名の入居者を迎えることとなりました。
消防設備の設置や居間のソファ、テレビなど2部屋分を用意する必要があるなど、いろいろと金額が掛かってしまいましたが、なんとか設備を整えました。
都庁による現地確認
家具の設置や消防の検査などが済みますと、事業所に備付けておく書類などを用意して都庁の方の現地確認の予約を取ります。
ちなみに、現地確認の際に確認される事項は以下となります。
- 必要な備品が揃っているか(家具、家電、鍵付き書庫、金庫など)
- 消防設備(検査結果通知書が届いた状態)
- 掲示物は掲示してあるか(運営規程、緊急連絡先、苦情相談窓口、協力医療機関、従業員勤務表など)
- 利用者契約書・別紙、重要事項説明書、その他契約書等のフォーマットが整っているか
各種書類を用意するのは、種類が多数ありボリュームもかなりあるので、なかなか準備に時間が掛かるので注意が必要です。
現地確認当日は、都庁の担当者ともう一人の計二人がいらっしゃいました。
玄関から、各部屋、居間、キッチン、洗面所、浴槽などすべてを確認し、家具家電の配置や個室の広さの確認、施錠があるのかないのか、導線の確保について、安全面についてをしっかりと確認されました。
あとは、担当者が代表にヒアリング調査を行い、だいたい1時間過ぎに終了。
都庁の担当者とは何度も連絡のやり取りをしていたので、和やかな雰囲気の現地調査となりました。
スケジュール
スケジュールとしては、物件探しで時間の大半を使った感じとなりました。
簡単に説明すると、
契約締結(事業計画書作成開始) ⇒ 物件探し ⇒ 物件仮決定 ⇒ 都庁や消防へ相談 ⇒ 物件決定(並行して書類作成) ⇒ 都庁での面談 ⇒ 消防の立入検査と検査結果通知書取得 ⇒ 都庁の現地確認 ⇒ グループホーム開設
となりました。
お客様から4月1日にはグループホームの開設をしたいとのご要望だったので、都庁の担当者にもその旨をお伝えし、ギリギリのスケジュールで進めることとなりました。
具体的には、物件の仮決定に進んだのが、契約締結をした2019年夏から遠く離れた2020年12月末でした。
年末の物件仮決定から、そのまま年内に図面を作成し、1月4日に消防署での相談、5日に都庁での面談、そこから申請書類の作成や修正の繰り返しで、2月は毎週都庁へ来るように担当者から言われました。
また、2月の初めには並行して日本政策金融公庫への融資申請をして、家具家電の購入費や人件費などの融資案件も進めました。
3月1日に物件の賃貸借契約開始となり、すぐさま消防設備の工事と家具家電の搬入作業へと進め、12日に消防の立入検査がありました。
18日に検査結果通知書が到着し、22日に都庁の現地確認という流れでした。
そのあとは、特に都庁から何も通知がなかったので心配になり問い合わせたところ、無事グループホーム開設が承認されたとのことでしたので、晴れて4月1日から開設することができました。
おわりに
今回は、物件の仮決定からほぼ3か月間でのグループホーム開設となりましたが、都庁の担当者によると、かなりタイトなスケジュールであり、通常であれば4か月間は準備期間として用意することが必要であるとのことでした。
確かに、2月に週1で都庁へ面談に行くのは、なかなかスケジュールの合間を縫って行くのが大変でした。
また、お客様も最低一度は都庁で担当者との面談が必要なので、忙しい仕事の合間を縫ってスケジュールを組むなどお客様自身も大変だったかもしれません。
今回は、人員確保という部分ではあまり苦労せずに進めたのですが(途中でスタッフが変更したり、雇用契約書を作り直したり、辞令を作成したり、入居予定者が変更したりはありましたが)、何よりも物件探しが大変でした。
物件の仮決定、物件の計測、設備要件に当てはまるか、消防設備は何を設置し、大掛かりな工事は不要かなど、かなり神経を使う場面がありました。
お客様の考えを都庁の担当者へしっかりと伝えることや、都庁からの意見をお客様に取りこぼすことなくお伝えすることも重要で、濃密な3か月間でした。
これから、初めてグループホーム開設を考えている方はもちろんのこと、現在別の障がい者施設を運営されている方なども、グループホーム開設はかなり時間と労力が掛かる申請となります。
しっかりとした準備期間をもって、また、人員確保がある程度整った状態で、グループホーム開設へと進めていただければと思います。